スポーツにおける外傷性脊髄損傷:MOI、急性期の兆候と対応について

こんにちは、今回の投稿ではスポーツ現場での脊髄損傷(主に頸髄損傷)についての病態、病理、初期の症状と兆候から対応までカバーしていきます。特にコリジョンスポーツでは危機意識の高い怪我だと思いますが、いざ発生した際にいち早く評価、認知しチームとして意思疎通の上、2次損傷を防ぎながら救命の連鎖に繋げることができるでしょうか?以下のポイントについて整理したいと思います。

  1. 受傷起点とその際の頚椎の動き(buckling effect)
  2. 外傷性脊髄損傷の病理、脊柱損傷と脊髄損傷の違い
  3. RED FLAG(急性期の兆候)-GCSの評価
  4. C-spine rule for immobilization
  5. まとめ

1 受傷起点とその際の頚椎の動き(buckling effect)

多くの研究で言及されている損傷機序の一つは、軸荷重による圧縮力であり、これは、椎体のBuckling effectや破裂骨折を引き起こす。アメリカンフットボールのスピアリングタックルとして知られていますね。

その他、急激な減速を伴う屈曲力は、椎骨の骨折や亜脱臼を引き起こす、さらに、脊柱にかかる張力負荷は、椎間板の損傷や関節包の断裂、椎体の骨折を引き起こす可能性があり、水平方向の剪断力は、横靭帯の損傷や歯状骨の骨折を引き起す。

スピアリングタックルの様に脊柱がわずかに屈曲した姿勢では、脊柱はセグメントとしてに硬い柱様となり、筋組織と椎間板が力を吸収する、頭頂部からの軸方向の負荷が続くと、脊柱の骨構造にBucklingが生じ、頸椎損傷の原因となる。Suzukiによると、骨構造の破壊を伴わない脊髄損傷が本邦では多くそのメカニズムはこういった骨挙動にある様です。個人的に脊髄損傷といえば骨折を伴う場合が多い、と思い込んでいる節もあり、初期の認知に大きな誤解を与えかねないな、と感じています。

完全損傷と不完全損傷の定義:「完全損傷」とは、脊髄が横断的に離断され、神経伝達機能が完全に絶たれた状態を指します。この状態では、損傷部位以下の機能が完全に麻痺してしまいます。また、仙髄機能が温存されておらず、肛門周囲の知覚や肛門括約筋の収縮が見られない状態です。一方、「不完全損傷」では、脊髄の一部が損傷や圧迫を受け、一部の機能が残存しています。

Buckling effect(図1)とは、軸方向の荷重が上椎骨を屈曲または伸展させると、下椎骨が反対方向に動くと骨挙動と説明され、この挙動により、脊柱の骨構造は、余分な負荷を軽減しようとして大きな角度をとり、最終的には最も弱い部分で構造破壊が起こり、また脊柱管の直径と長さの減少につながり、脊髄に圧をかける原因となりうる。

図1:関節の回転中心より腹側Aor背側Bいずれかに軸圧がかかった場合の椎骨の挙動の変化を解説

脊髄損傷の病理:脊柱損傷と脊髄損傷の違い

脊髄損傷の原因となる生体力学的な力は、脊柱を構成する軟部組織と骨構造の両方を破壊する。脊髄損傷は、脊髄を取り囲み支えている靭帯や骨構造の破壊が原因であることが多い。脊髄の損傷が明らかでない脊柱の損傷もありうるとされています。

脊柱の損傷

後靭帯複合体、後縦靭帯、および前縦靭帯は損傷の可能性のある軟部組織構造である。これらの構造が破壊されると、脊柱が不安定になり、椎骨が互いに独立して動くようになる。これにより脊柱管内腔の広さ(SAC:Space availavle for the cord)は損なわれる可能性があり、また脊柱が不安定になることによる二次的損傷のリスクが高まる。SACの低下は脊髄や脊髄神経へのインピンジメントを引き起こし、その結果、感覚や運動機能が 低下する可能性がある。インピンジメントは、血管の攣縮と浮腫につながる組織損傷を引き起こし、出血性壊死と脊髄の灌流低下につながる。

脊髄の損傷

脊髄の孤立性損傷はまれであり、髄膜炎、動脈瘤、または横断性脊髄炎などの基礎疾患と関連するのが一般的である。十分な力を伴う脊柱の機械的損傷は、脊髄損傷と関連することがより一般的である。二次的損傷という用語は、付加的な機械的損傷の結果としての損傷を指す。

脊髄損傷はしばしば、最初の脊柱損傷が誘発または増悪させる二次的損傷と関連している。損傷に対する連鎖的な生理学的反応と、病院前および病院での管理中の医療者の行動が、二次損傷を引き起こす可能性がある。

外傷性脊椎損傷をケアするすべての医療従事者は、脊柱損傷と脊髄損傷の違いを認識し、脊柱損傷の疑いがある患者をケアするときは、医療従事者による二次損傷の可能性を減らすため、あらゆる過度な動きを避けるべきである。脊柱の伸展は制限すべき最も重要な動作である。屈曲、側屈、側方回旋などの他の動作と比較し、伸展は頸椎損傷の疑いのある患者のSACを最も低下させる可能性がある。したがって、脊髄損傷の可能性が生じたら、 患者の頸椎に生じる運動量を制限することが重要である。

非常に重要なポイントですね、脊髄に与えるダメージは骨の破断からの物理的な損傷はもちろんですが、脊柱の不安定性や、SACの低下からくる生理学的環境悪化の暴露がどれだけ続くか、といった点が上記の解説から見えてくるかと思います。正中位での頸部固定の重要性はもちろん、脊髄損傷が疑われる患者さんを触ること自体のリスクを考えなえばなりませんね。我々の半端な手技が大きな影響を与える可能性がある、ということを認識しましょう。刻一刻と状況が悪化している、ということを考えなばならないと思います。

脊髄損傷の症状

  • 筋力低下または麻痺
  • 感覚異常
  • 自律神経機能の異常
  • 呼吸障害
  • 血行障害:神経原性ショック
  • 膀胱直腸障害

初期の認知と評価

通常の外傷と同様、Primary surveyを実施する(SABCDE)、受傷起点の観察からは、異常な硬直姿勢※後述や、脱力が把握できる場合があり、Primary surveyを実施する中で、特に脊髄損傷のRed flagは、意識レベルの低下、両側性の神経症状、脊柱の正中線に沿った疼痛or圧痛の訴え、観察による椎骨の脱臼/骨折及び変形、であるが、損傷高位によっては直ちに呼吸に影響が出る場合もあることを考慮しておく。

Domeier et alによると 、大規模な前向き研究に参加した脊椎損傷患者のほとんど(87%)が、上記の臨床所見のうち1つ以 上を呈していたと報告している。また、Glasgow Coma Scaleは、頸椎痛の可能性を予測する指標として同定されている。さらに、Demetriades et al によると 、Glasgow Coma Scaleのスコアが低いほど頸椎損傷のリスクが高いという逆相関を明らかにしている。GCSは救急隊へ正確に緊急性を伝えることのできる共通言語の一つだと思います、なかなか暗記も難しいですよね、私は目に届くところに掲示する様にしています。

Decorticate posturingとDecerebrate posturingは重度の脳損傷や神経系の障害によって生じる姿勢の異常を表す医学的用語で、GCSではDecerebrateの方が重症度が高く設定されている。
1. Decorticate posturing(除皮質姿勢):GCS M best motor response 中3
– Decorticate posturingは、一般的に脳の大脳皮質の機能が損なわれたときに生じます。
– 患者は上肢が体の中心に向かって曲がり、手首や指が内側に向かって曲がります。同時に、下肢は伸びています。
– この姿勢は、大脳皮質やその周囲の組織への損傷によって引き起こされることが多く、通常は病気や外傷による脳の状態の深刻な問題を示唆しています。
2. Decerebrate posturing(除脳姿勢):GCS M best motor response 中2
– Decerebrate posturingは、脳幹の損傷によって生じることが多いです。
– 患者は上肢と下肢が両方とも体の外側に伸び、手首や指は背中に曲がります。
– この姿勢は、一般により深刻な脳損傷を示しており、大脳幹の機能に影響を及ぼす病気や外傷によるものである可能性があります。

脊柱の触診について:頭蓋底(後頭部)から検査を開始し、1椎体ずつ棘突起を下降させる、頸椎1番と2番は棘突起が存在しないか非常に小さいため、触診が最も難しい。頸椎3~7番の棘突起は、脊柱を触診するにつれて目立つようになり、各椎体の横突起も触診時に確認する。
触診の際のポイントは、段差のある変形、腫脹、シビレ、痛みの増大(患者の報告による)を確認する。靭帯損傷がある場合は、椎骨が上または下へ移動することがある。

頸部保護の為のCanadian C-spine rule

また、比較的容体が安定している症例に向けてこのようなテストもあり、頸部の保護(MILS及びネックカラー)の有無について段階的に判断できる仕様となっています。

第一フェーズ  以下のハイリスク項目が一つでも当てはまれば保護、当てはまらなければ第二フェーズへ

65歳以上
危険な受傷起点
または四肢の感覚異常

第二フェーズ 以下のローリスク5項目が一つでも当てはまり、頸部の自動回旋が左右45度できれば保護は不要/ローリスク5項目が一つも当てはまらない、または自動回旋不能であれば保護

後方からの追突事故
歩行可能
座位可能
遅発性頸部痛なし
頚椎正中線の圧痛なし

まとめ

いかがでしたでしょうか、キーポイントは脊髄損傷とは脊柱の不安定性や内腔の低下により刻一刻と悪化の可能性がある病態であり、一刻も早い認知と処置が求められる。今回は述べていませんが、現場では適切な手技による頸部の保護と、迅速に救命の連鎖へつなぐことが重要ですね。素早い認知のために、受傷起点の特徴や、その際に見られるかもしれない硬直姿勢などをしっかりと観察し、SABCDEの上でGCSやRED FLAGをしっかりと確認する必要がありそうです。

参考文献

Epidemiology of sport-related spinal cord injuries: A systematic review

脊髄・脊椎損傷の急性期治療 鈴木晋介

National Athletic Trainers’ Association Position Statement: Acute Management of the Cervical Spine– Injured Athlete

 

 

Domeier RM, Swor RA, Evans RW, et al. Multicenter prospective validation of prehospital clinical spinal clearance criteria. J Trauma. 2002;53(4):744–750.

Domeier RM, Frederiksen SM, Welch K. Prospective performance assessment of an out-of-hospital protocol for selective spine immobilization using clinical spine clearance criteria. Ann Emerg Med. 2005;46(2):123–131

 

Acute and emergency care in athletic training Michelle A.Cleary